ロービジョンケアってなんだろう
ロービジョンケアってなんだろう(論文)
ロービジョンケアについて
1:はじめに | 2:ロービジョンとは? | 3:ロービジョン者の見え方 | 4:眼科スタッフのできること | 5:他機関との連携の大切さ | 6:おわりに
「ロービジョンケアってなんだろう」は、眼科領域の医療・看護専門誌「眼科ケア」(メディカ出版)に掲載された論文です。執筆者は、日本ロービジョン学会評議員・当院視能訓練士 山田敏夫です。
昨今、眼科診療のなかに「ロービジョンケア」という言葉が浸透し、2000年4月には、日本ロービジョン学会も設立されました。そして、私ども眼科スタッフは、日々、眼の不自由な方々の検査や看護に一生懸命かかわっていると思います。しかし、忙しい眼科診療のなかで、個々の患者さんの日常生活の困難さ、不便さ、それに伴う心の悩みを、少しでも改善しようと考えたケアを確かに行っているといえるでしょうか。実際には、ロービジョンの患者さんの日常での見え方や、何に困っているのかについて想像がつかず、「何をすればいいのかわからない」というスタッフの方々も多いのではないかと思います。
「ロービジョンケアってなんだろう?」と思っているスタッフの皆さん。これから、いっしょに「ロービジョンケア」について考えてみましょう。
WHO基準では「矯正視力が両眼で0.05以上0.3未満」となっていますが、ロービジョンの定義は、まだ確立していないのが現状です。梁島(※1)は、「視力検査や視野検査で得られた視機能で断定することはできず、日常生活で患者が視覚的に困難さを感じたときが、ロービジョンの始まりである」と述べています。全国には、視覚障害者手帳を持つ方が約35万人で、そのうちの約70%が視覚活用が可能なロービジョン者です(※2)。また、日本眼科医会は、日常に困難さを感じている方の潜在数を約100万人と推定しています。
それでは、どのような眼疾患がおもに視覚的な困難さをもたらすのでしょうか。先天性では、「視神経萎縮」、「先天性白内障」、「未熟児網膜症」、「網膜色素変性症」などです(※3)。中途では、「糖尿病性網膜症」、「網膜色素変性症」、「緑内障」などです。
視覚障害者手帳交付基準は、1~6級までの段階があり、不自由さの程度を示しています(表1)。6級までに該当しなくても、日常に不自由さを感じている方は多く存在しますが、ここでは、この基準となる見え方について考えてみます。原田(※4)は、視力障害の状態による生活の困難さを次の3つに大別しました。
| 1級 | 両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常のある者については、矯正視力をいう、以下同じ)の和が0.01以下のもの |
|---|---|
| 2級 | (1)両眼の視力の和が、0.02以上0.04以下のもの (2)両眼の視野がそれぞれ10°以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が95%以上のもの |
| 3級 | (1)両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの (2)両眼の視野がそれぞれ10°以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が90%以上のもの |
| 4級 | (1)両眼の視力の和0.09以上0.12以下のもの (2)両眼の視野がそれぞれ10°以内のもの |
| 5級 | (1)両眼の視力の和が0.13以上0.2以下のもの (2)両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの |
| 6級 | 1眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもので、両眼の視力の和が0.2を超えるもの |
- (1)0.01程度の視力があれば、食事や衣服の着脱等の50cmくらいで行える身の回りの動作がなんとか可能である。
- (2)0.02程度の視力があれば、最低1mくらい先の物の存在がわかるため、手探りをしない歩行や行動ができ、家庭内の移動や、家族と交流する家庭生活がなんとか可能である。
- (3)家庭から出ての学校生活、あるいは職業に従事するなどの社会生活が可能である。
では次に、眼科内での具体的な場面で考えてみましょう。ロービジョン者が大きな困難を感じていることの一つに、対話している相手の顔の表情がわからないということがあります。たとえば、眼科スタッフが、検査室へ案内するとします(図1)。0.02くらいの視力では、1m先のスタッフの眼と鼻、口の存在がわかる程度で、細かな表情をとらえることは難しい状態です(図2)。 ロービジョン者の見え方人の動きが多い待合室から検査室への案内は1m以内まで近づき、ロービジョン者の名前を呼んで、対応するスタッフ自身を確認してもらうことから始めることが必要です。また、視野10゜のロービジョン者は、1mの距離からスタッフが声かけをした場合、顔の全体がやっと把握できる程度で、案内している手を同時に見ることはできません(図3)。さらに、中心暗点がある方は、視野が狭い場合よりもさらに見え方に限界があります(図4)。そのため、たとえば「こちらへどうぞ」だけではわかりにくいので、「右側」あるいは「まっすぐ前に」など、具体的な方向の声かけをし、場合によっては手をさしのべて介助することが必要です。ちなみに、テレホンカードの使用済みの穴を片眼でのぞいて1m先を見た時の景色は、約10゜の視野に相当しますので、体験してみてください。
障害を受容するまでの心の痛みを十分に理解し、ロービジョン者の生活の困難さに共感できる言動がとても大事であると思います。そうすれば、ご自身が困難に思っていることを心を開いて相談してくれるようになると思います。
そこで、眼科で行えるおもなことを(図5)に示しました。眼科でのケア まず行うべきことは、視機能を正しく評価するということです。視力、視野をはじめとする諸検査時に、適切な声かけをしながら、正確なデータを出すことに精力を注がなければなりません。このとき重要なことは、正確な屈折矯正を行う努力をすることです。その結果で得られた視力が、とても大切な基準となるからです。そして、保有視覚の活用が可能である場合、「読み・書きに困難をもつとき」と「歩行・日常生活に困難をもつとき」とに分けて問診を行いましょう。視野が狭いために困難さがある場合は、見たいものを探し、その全体像を把握するために、眼球や顔を動かすことを指導あるいは訓練します。また、中途で中心が見にくい場合は、中心以外の位置で見ることを訓練します。また、ニーズに合った視覚的補助具を選定・処方します。
視覚的補助具は、レンズ系を使用した光学的補助具と、そのほかさまざまな非光学的補助具とに分けられます(表2)。光学的補助具には、「弱視レンズ」「遮光眼鏡」「フレネル膜プリズム」などがあります。非光学的補助具には、「拡大読書器」「文字拡大パソコン」「罫線枠」「書見台」「照明」などがあります。 必要に応じて、使用訓練を行うことも重要です。これらの視覚的補助具のなかには、視覚障害者手帳を持っていれば、補装具あるいは日常生活用具として福祉の補助の対象となるものがあります。また、視覚障害者手帳を持つことで、福祉からの経済的援助や公共・交通機関使用時のサービスなどを受けることができるようになりますので、申請の有無を判断することも必要なことです。これらのことを、視能訓練士、ナースなどが役割を分担しながら、ドクターがチームの責任者となって行っていきます(※5)。
| 光学的補助具 | 非光学的補助具 |
|---|---|
| ●弱視レンズ:弱視眼鏡、単眼鏡、ルーペ、強度の凸レンズ眼鏡●遮光眼鏡●フレネル膜プリズム ほか | ●拡大読書器●文字拡大パソコン●拡大本、拡大コピー●罫線枠●書見台●照明 ほか |
ところで、一般眼科では、歩行・日常生活の困難さをすべてケアしようと考えても、時間的、技術的にも限界がありますので、他機関を紹介し連携していくことが必要であると考えます。
視覚の発達時期に障害をもちながら成長していかなければならない先天性のロービジョン児と、障害なく視覚を使用した生活を送っていたのに、中途で不自由となったロービジョン者とでは、日常生活での困難さやそれに伴う心の悩みの内容がまったく異なります
ロービジョン児の場合、視覚障害を認知し、子育てしていこうとする家族へのケアが、まず第一であると思います。そして、視覚情報の不足のために全身発達が遅れないよう、視覚を積極的に使用させるための補助具使用を含んだ訓練が必要です(左図)。そして、就学後も長期にわたり、保有視覚を有効に使用するための指導・訓練が継続されることが大事です。また、最近は、視力検査などが難しい発達遅滞児の割合が高くなっています。このような児に対して、早期に屈折矯正を行い、必要ならば眼鏡装用しながら、全身の発達を促すことが望まれるところです(※6)。
このように発達途上にあるロービジョン児に対して、家庭や学校生活に適応しながら、希望をもってたくましく生きていくことを援助するためには、眼科だけでは限界があります。そのため、地域の療育センターや盲学校、弱視学級あるいは通級指導教室の視覚障害児を専門指導できる機関との連携を考えていくことはとても重要です(※7)。
一方、中途のロービジョン者へは、生きる自信を取り戻すための心のケアをしながら、文字の読み・書きや歩行・日常生活の困難さを改善して、仕事や家庭生活が継続できるようにすることが必要です。全国には、これらの援助を専門としているロービジョンクリニックもあります。また、援助を通所や家庭への訪問あるいは入所で行う福祉施設があります。これらの専門機関との連携が大事だと思います。
著者は、地域での連携を重要視し、1990年に「ロービジョン研究会アナミ」という会を結成しました。互いに定期的な勉強会を行いながら、年に1回のシンポジウムを開いて社会的な啓発にも努力しています(※8)。会員は、ドクター、視能訓練士、ナース、盲学校・養護学校教諭、療育指導員、歩行訓練士、ボランティアなどです。10年を振り返ると、連携の輪は広がりましたが、まだまだ個人レベルでの繋がりが大きく、有機的な連携の難しさを感じています。しかし、眼科スタッフが、積極的に他分野の人々と交流しながら、ロービジョン者の生活の困難さに対して理解を深めていくことはとても大切なことであると考えています。
以上、述べてきましたように、「ロービジョンケア」とは、ロービジョン者の見え方とそれに伴う困難さを理解することが重要なことなのです。そのためには、職業人の前に1人の人間としての優しさが問われます。ロービジョン者との出会いのなかで、「自分に何ができるのか」と考えるところから、「ロービジョンケア」は始まるのです。
- (※1) 梁島謙次:ロービジョンとは、眼科診療プラクテイス、3:10-13、文光堂、2000
- (※2) 総理府・編:障害者施策に関する基礎資料;障害者白書、251-275、大蔵省、1997
- (※3) 池谷尚剛、高橋尚子、香川邦生、ほか:全国盲学校児童生徒の視覚障害原因とその推移[1990年度全国調査結果];日本特殊教育学会第29回大会発表論文集、8-9、1991
- (※4) 原田政美:視力障害の程度と見え方;眼のはたらきと学習、114-142、慶應通信、1989
- (※5) 新井三樹・編:ロービジョンクリニックを始めるために;わたしにもできるロービジョンケアハンドブック、138-143、メジカルビュー社、2000
- (※6) 佐島毅:知的発達障害児の屈折異常の特徴と早期対応、特殊教育学研究、37(1)、59-66、1999
- (※7) 高橋広:小児ロービジョンケア―地域での連携の重要性―、眼科、43:917-922、2001
- (※8) 原志治、中満達郎、山田敏夫、武藤正:地域ネットワーク[ロービジョン研究会アナミの10年];第10回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集、59-62、2001

