加齢黄斑変性
「加齢黄斑変性」治療の最前線 ~光線力学療法(PDT)と目の老化対策について~
社会の高齢化にあわせて日本でも増えている加齢黄斑変性は、欧米では既に失明原因の第1位に挙げられる病気。現在はまだ決定的な治療法が存在しないが、安全で効果の高い光線力学療法、photo dynamic therapy(PDT)の実施が日本でも認められるなど、この病気で悩む人たちにとって明るい兆しが見えてきた。足かけ3年にわたるPDTの臨床治験等を行い、現在、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究」班の主任研究者を務めている九州大学の石橋達朗教授が第42回 日本網膜硝子体学会総会開催記念として加齢黄斑変性治療の現状を語られた。[朝日新聞(2003年12月11日)に掲載]
【第42回日本網膜硝子体学会総会 会長 九州大学眼科学教室教授 石橋 達朗 氏】
[いしばし・たつろう]1975年九州大学医学部卒業、同年眼科入局。84年から南カリフォルニア大学ドヘニー眼研究所留学を経て、86年に九州大学に戻り医学部眼科講師。95年助教授、01年より現職。日本眼科学会理事、日本糖尿病眼学会理事、日本網膜硝子体学会理事など役職多数。専門分野は糖尿病網膜症、加齢黄斑変性などの網膜硝子体疾患。
高齢化社会と欧米型の生活で増加している加齢黄斑変性
黄斑とは、カメラで言えばフィルムにあたる網膜の中心に位置し、光りが集中する部分のことで、人がものを見るうえで最も大切な働きをしています。加齢黄斑変性は、50歳以上の高齢者に見られる黄斑の病気であり、欧米では失明原因の第1位となっています。症状が進むと、視野の中心にゆがみや暗点が生じ、文字を読んだり人の顔を見たりという日常の活動が著しく困難になります。
現在、日本人の失明原因として最も多い疾患は糖尿病網膜症ですが、この10~15年ほどは加齢黄斑変性が目立って増加しており、社会の高齢化が進む今後はさらに大きな問題になると予想されます。発症には加齢を基盤として、何らかの遺伝要因とともに、高血圧などの全身疾患、喫煙、食事といった環境要因が深く関っていると考えられ、日本人の生活が近年欧米化していることも、この病気の増加の一因であると思われます。
根治療法が存在しない現在早期の発見と治療が重要に
加齢黄斑変性には、大きく分けて滲出型と萎縮型という二つのタイプがあります。このうち萎縮型は進行が緩やかで、急激な視力の低下も起こりにくく、それほど怖いものではありません。問題となるのは滲出型の方です。これは、網膜の下にある脈絡膜という部分から生じた新生血管(新しい血管)が、網膜の方向に伸びてくるために起こります。この新生血管は、血管として不完全であるため、出血や血液成分の滲出による浮腫(腫れ)を生じることになります。
このように、病気の進行するプロセスは分かっているものの、そもそもなぜ新生血管が生じるのかについては解明されていないため、まだ決定的な治療法が存在していません。そのため、なるべく早期に発見し、適切な治療を開始することが大変重要になってきます。
一般的に利用されるレーザーを用いた光凝固法
加齢黄斑変性の治療法としては、第一にレーザーを用いた光凝固法が挙げられます。これは、新生血管を含む病変部位に強いレーザー凝固を行い、病変を焼き固めてしまうもので、現在最も一般的に利用されています。ただし問題は、病変が中心窩(黄斑のさらに中心部)に及んでいる場合には利用できないということです。中心窩からはずれていれば、組織を焼き固めても物を見るうえで大きな支障は起こりませんが、中心窩の場合は「治療は成功したが見えなくなった」ということにもなりかねません。
この他の治療法として、放射線療法や温熱療法、対症療法としての止血剤の投与なども用いられますが、いずれの場合も効果が安定しない、つまり状態の改善につながらないことも多いのが難点です。そこで、現在、欧米で治療の第一選択として利用されているのが、光線力学療法(PDT)と呼ばれるものです。
薬剤と弱いレーザーで新生血管を潰す光線力学療法
PDTとは、薬剤と弱いレーザーを用いて、言わば新生血管だけを狙い撃ちにする治療法です。新生血管の内部に溜まる特殊な薬剤を静脈から注射し、ある波長のレーザーを照射すると、その物質が化学変化を起こして新生血管だけを潰してくれるのです。日本では、全国五つの大学で2年以上に及ぶPDTの臨床治験が行われてきましたが、そこで得られた結果は、「既に臨床適用されている米国での成績と比較して、同等がそれ以上に有効」というものでした。PDTの効果は人種によって差があると言われていますが、少なくとも日本人に対しては十分に有効であることが実証されたのです。
これにより、日本でも来年(2004年)春頃からPDTを行うことが可能となります。これまでは、どおしてもPDTを受けたい患者さんがやむなく海外に出かけるケースもありましたので、日本で実施できるようになったことは大きな喜びです。
網膜硝子体学会の開催を機に広く病気についての理解を
50歳を過ぎた方で、中心部が見えにくかったり、線がゆがんで見えたりすることがあれば、早めに眼科医に相談するようにしてください。時々、片目を隠してものを見ると、変化が分かることがあります。加齢黄斑変性には痛みなどの自覚症状はありません。いくらメガネを合わせても見えにくさが変わらない場合にも、加齢黄斑変性である可能性があります。
先述の通り、この病気の原因はまだきちんと解明されていませんが、喫煙を控えるなどの生活面の管理により、ある程度は予防が可能であると考えられます。また、アメリカではサプリメントの使用が、加齢黄斑変性の予防や進行防止に効果があるとの報告もあります。目に良い影響を与える可能性があるビタミンやミネラルの摂取は、ある程度の効果が期待できるかも知れません。
高齢化社会の中、長くなった老後を快適に過ごすためにも、一人でも多くの方にこの病気の予防と治療についてご理解をいただければと思っています。
当院でも2004年12月よりPDT治療を開始しています。ご希望の方は、当院スタッフにご相談下さい。

